映画『犬神家の一族』『セーラー服と機関銃』『時をかける少女』など、1970年代から日本映画の黄金期を築き上げ、多数のヒット作を世に送り出してきた巨匠プロデューサー・角川春樹。今年77歳を迎えた角川春樹が、生涯最後の監督作品として、映画『みをつくし料理帖』でメガホンをとる。

原作はシリーズ全12巻がハルキ文庫より刊行され、累計400万部を突破した作家・髙田郁氏による同名ベストセラー時代小説。原作小説誕生時に出版前のゲラ原稿を読んで「とにかく感動しすぎて、人に会うのも恥ずかしくなるくらい号泣した。これほど感動させられた時代劇小説は山本周五郎の『さぶ』(1965)以来」と惚れ込んだ。そして原作小説第1作目誕生から10年目の令和元年に、遂に映画化が決定した。

「10年ぶりの映画であり、私の最後の監督作品になる」と宣言する角川監督。本来はプロデューサーとして関わるつもりだったが、角川監督の原作小説に対する愛着を知る愛妻の「製作だけならばやるべきではない。監督・角川春樹の最後の監督作になって初めて伝わる想いがあるはず」との言葉に背中を押された。70歳のときに誕生した息子の存在も、メガホンをとらせた大きな要因だ。「子供とは会社にいるとき以外は一緒に風呂に入って、一緒にゴハンを食べて、本の読み聞かせもして、一緒に手を繋いで子供が眠りにつくまで一緒にいる。そういった経験を通して、自分よりも大切なものがあると気付かされた。その感覚が『みをつくし料理帖』という人情ドラマに余計に惹かれた理由かもしれない」と父性が原動力になったようだ。

今年8月にクランクイン。栃木県の江戸ワンダーランド日光江戸村および都内スタジオを使用しての約2ヶ月の撮影スケジュールだ。「息子の夏休みを利用して撮影するつもり。実に家族的ですね。一昔前の角川春樹では考えられなかったこと。角川春樹事務所としての映画製作もおよそ10年ぶりですが、現場スタッフには『楽しんで映画をやろう!』と伝えています。ギラギラしていた昔とは真逆。自分にとっての代表作を作りたいという気持ちが大きい」と宣言する。

江戸・神田にある蕎麦処「つる家」で働く女料理人・澪を演じるのは、女優の松本穂香。TBS系連続ドラマ『この世界の片隅に』での演技と、バラエティー番組『世界ウルルン滞在記』での自然体の姿に惚れ込んだ。「若いのに演技が上手だと思ったし、素の笑い顔もとても魅力的。澪は女料理人というごく普通の女性なので、現代の松本がそのままタイムスリップして時代劇の世界に入り込んだ感覚を狙っています。作られた演技はいらない。感情表現としては彼女の素を引き出したい」と演出プランを明かす。衣装合わせの段階で「ここに澪ちゃんが立っている、という感覚になった。その瞬間から映画が動き出した」と手応え十分だ。

澪と離れ離れになってしまった幼なじみの野江には、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』で注目を集めた女優の奈緒をキャスティング。一目見たときから、自身が製作を務めた大ヒット作『男たちの大和/YAMATO』(2005)に出演した女優の蒼井優と同じものを感じたという。「松山ケンイチと蒼井優が『男たちの大和/YAMATO』でブレイクしたように、間違いなく奈緒も『みをつくし料理帖』をきっかけにブレイクするはず」と断言する。江戸の吉原で頂点を極めるあさひ太夫を守る男・又次を務めるのは、『男たちの大和/YAMATO』に出演した歌舞伎俳優・中村獅童。「彼は歌舞伎などで多忙でスケジュールの確保が難しかったけれど、頼んだら予定を空けてくれました」と深い絆で繋がっているからこそ実現したわけだ。

“最後の監督作品”と宣言しているだけに、キャスティングも豪華絢爛になる。「色々な方から『出たい』という声をいただく。まだ発表はできないけれど、角川映画のスターたちも出演する、現在の邦画界でのオールスターキャスト映画になる」と集大成を予告。劇場公開は2020年の東京五輪イヤーを目指しており「作品のイメージとしては時代劇版『おしん』。物語のモチーフとして日本食があり、東京五輪の年に日本料理ということで、海外に向けても大きくアピールできる」と海外マーケットも視野に。物語のもう一人の主人公ともいえるその日本食は、服部料理専門学校の服部幸應氏が監修している。「観客層としては30、40代の女性を想定しているけれど、若いマーケットの拡充も狙う。宣伝手法もSNSなどを駆使。エンターテインメント時代劇として感動が伝わる映画にして、観客のみなさんには泣けてほのぼのとした気持ちで映画館を出てほしい」と具体的な思いを込める。

今回の映画化に当たっては原作小説3巻までのストーリーを描くが、原作小説は全10巻ある。「女房からは『大ヒットしたら続編をやるべき』と言われているけれど、今回で最後の監督作と銘打っていますから。でも息子に『続きが観たい!』と言われたら…どうかなぁ。人生設計が狂うね」と不敵な笑みも、満更ではなさそう。活動屋魂の行く先は?映画『みをつくし料理帖』の完成に大きな期待がかかる。
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